ごあいさつ
「独立行政法人国立文化財機構」は2017年(平成29年)4月1日に設立10周年を迎えました。
当機構は2007年(平成19年)4月に「独立行政法人国立博物館」の四つの国立博物館(東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、九州国立博物館)と「独立行政法人文化財研究所」の二つの文化財研究所(東京文化財研究所、奈良文化財研究所)が統合して発足しました。その後、2011年(平成23年)10月にアジア太平洋無形文化遺産研究センターが加わり、現在は七つの施設で構成されています。各施設はそれぞれ設立の経緯や目的に違いがありますが、文化財の保存と活用に一体となって取り組み、我が国の文化財保護行政の基盤を支える中核的な役割を担っています。
文化財は、我が国の成り立ちを示す貴重な歴史的、文化的な遺産です。当機構は、この文化財を収集・保管し、展示と活用、調査・研究を通して、日本の歴史と伝統文化を国内外へ発信し、日本文化の理解の促進に努めています。
各施設を簡単に紹介しましょう。国立博物館の4館は、首都東京に所在し「日本文化の玄関口」として日本文化を総合的に展示する東京国立博物館を中心に、平安の都、京都で育まれた文化財を中心に展示する京都国立博物館、古都奈良と仏教美術に関わる文化財を中心に展示する奈良国立博物館、日本とアジア諸国の文化交流に関わる文化財を中心に展示する九州国立博物館からなっており、皆様から「東博(とうはく)」「京博(きょうはく)」「奈良博(ならはく)」「九博(きゅうはく)」の略称で親しまれています。
同じく「東文研(とうぶんけん)」と「奈文研(なぶんけん)」の略称で知られる東京文化財研究所と奈良文化財研究所は、東文研が動産文化財、奈文研が不動産文化財を中心とした保存・活用の調査研究に従事しています。両研究所は文化財の保存修復技術に関する最先端の研究開発に加え、東文研は無形文化財や美術史の調査研究と、文化遺産保護に関わる国際協力を推進し、奈文研は平城宮や飛鳥・藤原地域の発掘調査を通して日本の古代国家成立期の研究に取り組んでいます。
また、アジア太平洋無形文化遺産研究センターは、アジア太平洋地域における無形文化遺産保護の調査研究を支援する活動をユネスコと協力して進めています。
このように当機構を構成する7施設は、それぞれ特色ある活動を通して、我が国の文化財のほぼ全般にわたる調査と研究、保存と活用に携わっています。
国立文化財機構が発足して早10年。その間の歩みを「10年の歩み」として振り返ってみることにしました。当機構を取り巻くこの10年の情勢は、独立行政法人改革や運営交付金の縮減など大変厳しいものでしたが、7施設が一丸となって、自己収入の増加に向けた努力と業務の効率化、国民向けサービスの質の向上に努めてきました。
新たな10年は、2020年の東京オリンピック、パラリンピックの開催を控え、日本文化に対する世界の関心が高まることが予想されます。また近年は、観光や地域の活性化の資源として、各地の文化財に注目が集まっています。当機構も、日本の歴史と多様な伝統文化の魅力を分かりやすく世界に発信し、国際文化交流に貢献するとともに、各地の文化財のもつ魅力や価値の発掘にも貢献したいと考えています。
国立文化財機構は、発足10周年を機に、さらなる機構の発展と機能の充実を目指して、今後も努力を続ける所存です。何卒皆さまの暖かいご支援とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
しかし、いざ落語が始まり、客席から笑い声が聞こえてくると、ほっとして疲れも忘れます。自分たちが作り上げた会場でお客様に楽しんでもらうのはやはりうれしいです。
そして、落語が終了し、お客様を見送ったあと、舞台の片づけが待ち受けています。最後はやはり大変ですね(笑)。
の隅っこで
材料・手法ともに次々と新技術が提案されるので、研究対象は無限です。研究成果が博物館・美術館で応用され、安全で鑑賞しやすい空間ができると、心の中でひそかに喜んでいます。黒子です。
佐野 千絵
大土木工事のあと
この発掘調査は、土壌分析、地震痕跡、環境考古、年輪年代、三次元計測・・・奈文研の総力を尽くして取り組みました。遺構保存のために庁舎建設は2年ほど遅れましたが、整理作業は現在も継続中で、次々と新たな成果が生み出されています。
神野 恵
「文化財に親しむ授業」
時には講師を務める大学生に憧れ、「自分も文化財ソムリエになりたい」と言ってくれる子どももいます。この活動を始めてから今年で8年目。最初の年に授業をした小学6年生も、もう大学に入る頃です。いつか「あのとき受けた授業が忘れられなくて」なんて言いながら文化財ソムリエに応募してくれる人が現れないか、密かに心待ちにしています。
※主催:文化財に親しむ授業実行委員会(京都国立博物館、NPO法人京都文化協会、京都市教育委員会)
貴重な文化財を保護するために、東京国立博物館では年間約300回にも及ぶ文化財の入れ替えを行っています。「平常」=「いつも同じ」ではなく、「来るたびに違う文化財と出会うことができる」ことをより知っていただくことを念頭に置いています。
受け継ぐために
こうして、物の中に秘められていた価値が一つ現れる。未だ現前していない価値はどれほどあるのだろうか。無形の価値を受け継ぐためにも形ある遺産の保存が欠かせない所以である。
現代視覚芸術研究室長
されど“美術”書
『日本美術年鑑』を編む
総務担当 係長
アジア太平洋無形文化遺産研究センターは、本地域で唯一の無形文化遺産を研究するユネスコのカテゴリー2センターとして、上記の現状に対して、ユネスコ無形文化遺産保護条約の普及をはじめ、法制度整備、研究マッピング、災害リスクマネジメントなど、多岐にわたるプロジェクトに取り組み、時代や国境を越えた文化の伝承に貢献しております。
今年設立6年目を迎えたばかりの若い組織ですが、アジアの無形文化遺産保護の中心的な研究センターとなるべく活動しています。
総務担当係長 林 洋平
この冊子が誕生したのは5年前。館長指示のもと制作チームが結成され、私はイラストを担当しました。研究員からは、「○寺の仏像に、○寺仏の光背をつけてみて」「○を持たせて」と注文が出ます。イラストの良い所は、自由に合成が出来ること。ただ、異なる仏像の部分をマッチングさせるのは難しく、書きあげてみると、違和感があって何か変。少しずつ修正し、注文にない別の仏像とも照らし合わせて、「どこかにありそうで、実際にはない仏像
のイラストが出来ました。その冊子もすでに2版目。ぜひ、手に取ってご覧ください。
主任研究員 志賀 智史
展示改修について
展示室の改修は建築の内部空間を最大限生かしながら「床、壁、天井、展示ケース」を刷新しました。特に床仕上げの選定、ルーバー天井の採用や展示ケースの意匠などはトーハクのデザイン室で提案や設計をおこなっています。
まず各展示担当研究員の方々から「展示作品」や「どんな展示にするか」などについてのヒアリングを行うことから始め、作品保存のための指針など多くの要件を満たしつつ、各展示室に個性を与えながら全体として統一感のある展示室となるようデザインしました。また映り込みの少ない高透過低反射合せガラスを採用したこと、作品個々の展示方法にあわせて展示ケースをデザインしたことで、改修前よりも作品がより近く感じられ細部まで鑑賞できると思います。
散歩をするような建築空間の中で、旅をするかのようにお気に入りの東洋美術に出会って頂ければと思います。
主任研究員 矢野 賀一
CTスキャンの
導入について
活躍中のCTですが、遮蔽室を含めて約300[t]と大型です。様々な重量部品を組み立てるのにはクレーン(5[t]未満)を地下2Fの写場に設置する必要があり、既存の壁やドアを壊して部材を搬入するしかありませんでした。クレーンの部材をはじめとする重量部品の輸送中や設置中の現場は迫力と緊張感があり、今も現場に残るクレーン(使用はできません)は往時を偲ばせます。
苦労して設置したCTで得る画像は文化財の研究だけでなく、修理前、輸送前の作品を調査することによる修理や輸送のリスク軽減や、教育や展示など博物館活動の多くの場面で利用されています。
そんな地域性に富む獅子だからこそ、地域のアイデンティティにもなりえる。そうした価値観を大切に、継承や活用の一助になるような研究を続けたいと思う。
準備のころ
プラスアルファアプリ
「トーハクなび」
アプリ「トーハクなび」
教育普及室長 藤田 千織
リニューアルの話
2013年(平成25年)夏のゲリラ豪雨による被害を経て、事態は一変した。経緯の詳細は略すが、大規模なリニューアル工事が完了したのは2016年(平成28年)の春である。明るい室内空間において、個々の作品の美しさ、素晴らしさを存分に堪能いただける展示室が誕生したと考えている。もちろん地震対策にも意を凝らしたし、照明についても今日望みうる最良のものを導入しえた。世界に誇りうる展示館となったと自負する。そしてこれが、私にとって奈良博に在籍した間に関わった仕事のなかで最も記憶に残るものになるだろうと予感するのである。
キトラ古墳壁画
の展示
壁画の公開や保管はたいへんな仕事ですが、文化財を守り伝える大切な仕事として、他のメンバーとともに末永く継続していきます。
国宝指定へ
2003年(平成15年)以来、出土遺構のまとまりごとに、4回にわたって重要文化財指定が行われてきた平城宮跡の木簡が、2017年(平成29年)3月、新たに309点を追加した上で、「平城宮跡出土木簡」として一括して国宝に指定される運びとなりました。総点数は3,184点、既発掘の平城宮木簡の5%にも満たない数ですが、特別史跡平城宮跡が、地下の正倉院とも呼ぶべき重要な資料の宝庫であることが、改めて高く評価された出来事と言えるでしょう。
これからの文化財機構
2007年(平成19年)4月に二法人(独立行政法人国立博物館と独立行政法人文化財研究所)を統合して発足した独立行政法人国立文化財機構は、2017年(平成29年)3月末で10周年を迎えました。
発足時と2016年(平成28年)3月31日現在の法人に関するデータをいくつか取り上げてみると、国立博物館4館の収蔵品は120,788件から126,872件へと約6千件(5%)増加しており、入館者数は364万5千人(2006年度(平成18年度))から398万8千人へと34万3千人(9.4%)の増加がみられます。施設費を除く予算規模は、101億66百万円(2007年度(平成19年度))から約107億90百万円(2016年度(平成28年度))へと6億24百万円(6.1%)増加していますが、国からの運営費交付金を比較すると90億42百万円から83億88百万円へと6億54百万円(7.2%)減少しています。すなわち、自己収入割合を高めつつ事業規模を拡充してきたのが、ここ10年の歩みであったと振り返ることができます。
文化財機構の今後10年の展望を試みることは中々難しいことですが、少子高齢化や人口の都市部集中による社会構造の変化は、さらに地域社会に深い影響を及ぼすことが予想され、全国津々浦々の文化財の保護にもさらに手厚いサポートが必要になるかもしれません。また今後我が国の主要産業の一つとして成長が期待される観光分野とりわけインバウンドの増加に対し、文化遺産や文化財の活用は重要なコンテンツとして注目が集まっています。どうすればより多くの文化財を現在および将来にわたり見ていただくことができるか、この課題に対し文化財機構は果敢に挑戦していくことになることでしょう。他方、文化財機構はこの10年間に東日本大震災、熊本地震と二度の大災害に対し、文化財の救出や保存修理等の活動に携わってきました。それらの活動の先には、全国規模での文化財防災ネットワークの構築が必須であるという多くの関係者の声がありました。現在文化財機構は、文化庁の補助事業の下で文化財防災ネットワーク推進事業を実施していますが、次の段階に進めることも大きな課題となるでしょう。
文化財機構には文化財を確実に次代に継承するという、普遍的な使命があります。そのために必要な施設の整備や改修も一つのミッションであります。インフラの長寿命化に加え、建物自体が重要文化財という博物館施設も多くありますので、文化財の活用という観点も含め、これらの保存活用にも取り組むことが次の10年の大きな課題の一つです。
文化財機構は、文化財に関する国内および国際的なナショナルセンターとして、新たな課題に引き続き取り組んでまいります。