VOICE
- 現場で働く職員たちの声を集めました -
- 東京国立博物館
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企画課デザイン室 主任研究員矢野 賀一東洋館の展示改修について東洋館の展示室改修は2008年(平成20年)7月頃より計画がスタートし、約4年半の歳月をかけ2013年(平成25年)1月2日にリニューアルオープンしました。展示室改修は展示担当研究員、デザイン室、環境保存室、教育普及室、環境整備室など、それぞれの専門家が集まりトーハクの総力を結集してつくられています。もちろん建設会社、展示ケースメーカー、建築設計事務所をはじめとする多くの方々の協働により出来上がっていることは言うまでもありません。
展示室の改修は建築の内部空間を最大限生かしながら「床、壁、天井、展示ケース」を刷新しました。特に床仕上げの選定、ルーバー天井の採用や展示ケースの意匠などはトーハクのデザイン室で提案や設計をおこなっています。
まず各展示担当研究員の方々から「展示作品」や「どんな展示にするか」などについてのヒアリングを行うことから始め、作品保存のための指針など多くの要件を満たしつつ、各展示室に個性を与えながら全体として統一感のある展示室となるようデザインしました。また映り込みの少ない高透過低反射合せガラスを採用したこと、作品個々の展示方法にあわせて展示ケースをデザインしたことで、改修前よりも作品がより近く感じられ細部まで鑑賞できると思います。
散歩をするような建築空間の中で、旅をするかのようにお気に入りの東洋美術に出会って頂ければと思います。東京国立博物館 学芸企画部 企画課デザイン室
主任研究員 矢野 賀一 -
保存修復課 調査分析室長荒木 臣紀大型X線
CTスキャンの
導入について大型X線CTスキャンの導入について当館には文化財分野では国内最大のエックス線CT装置(以下、CT)があり、東洋館で展示していますハシェリエンプタハのミイラ(TJ-1835)のCT撮影画像は外部研究者と共同研究に用いられ、骨や歯のCT画像から死亡推定年齢などもわかってきました。
活躍中のCTですが、遮蔽室を含めて約300[t]と大型です。様々な重量部品を組み立てるのにはクレーン(5[t]未満)を地下2Fの写場に設置する必要があり、既存の壁やドアを壊して部材を搬入するしかありませんでした。クレーンの部材をはじめとする重量部品の輸送中や設置中の現場は迫力と緊張感があり、今も現場に残るクレーン(使用はできません)は往時を偲ばせます。
苦労して設置したCTで得る画像は文化財の研究だけでなく、修理前、輸送前の作品を調査することによる修理や輸送のリスク軽減や、教育や展示など博物館活動の多くの場面で利用されています。東京国立博物館 学芸研究部 保存修復課 調査分析室長 荒木 臣紀 -
博物館教育課 教育普及室長藤田 千織文化財体験に
プラスアルファアプリ
「トーハクなび」文化財体験にプラスアルファ:
アプリ「トーハクなび」東京国立博物館にスマホ用の公式ガイドアプリ「トーハクなび」があることをご存じでしょうか。内容は全6コース。各展示館および展示室の解説を日本語と英語で聞くことができます。本館2階と平成館考古展示室については、展示コーナーごとに一点ずつの「オススメ作品」を紹介しています。ほかに、トーハク内の建築をテーマにした「建物めぐりコース」、スマホ画面を指でなぞりながら蒔絵の制作工程を追体験したり、スマホを振ると、展示では聞くことのできない密教法具の音を鳴らしたりできる「体験型コンテンツ」などもお楽しみいただけます。教育普及担当の研究員が、楽しく分かりやすい切り口を心がけて担当しているアプリとともに、ICTならではのプラスアルファの文化財体験をお楽しみください。東京国立博物館 学芸企画部 博物館教育課
教育普及室長 藤田 千織 - 京都国立博物館
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教育室 研究員水谷 亜希文化財ソムリエによる
「文化財に親しむ授業」文化財ソムリエによる「文化財に親しむ授業京都国立博物館は、2009年(平成21年)から「文化財に親しむ授業(※)」を行っています。「文化財ソムリエ」と呼ばれる大学生・大学院生が、高精細の文化財複製とともに小中学校を訪問するこの取り組みは、子ども達と文化財のはじめての出会いを「楽しくてワクワクする体験」にする活動です。
時には講師を務める大学生に憧れ、「自分も文化財ソムリエになりたい」と言ってくれる子どももいます。この活動を始めてから今年で8年目。最初の年に授業をした小学6年生も、もう大学に入る頃です。いつか「あのとき受けた授業が忘れられなくて」なんて言いながら文化財ソムリエに応募してくれる人が現れないか、密かに心待ちにしています。
※主催:文化財に親しむ授業実行委員会(京都国立博物館、NPO法人京都文化協会、京都市教育委員会)京都国立博物館 学芸部 教育室 研究員 水谷 亜希 -
総務課 事業推進係天野 史郎京都・らくご博物館京都・らくご博物館京都国立博物館では10年以上前から我が国の伝統芸能である落語の上演を、「京都・らくご博物館」と題して実施しています。現在では年に4回、平成知新館の講堂を寄席として、落語家に来ていただき、落語を上演しています。落語はその雰囲気を楽しんでいただくのも大事。上演日は半日かけて、背後の金屏風、ステージ、緞帳、舞台袖を隠すパネル等準備します。それはまさに力仕事。開場前にすでに私たちはくたくたになっています。
しかし、いざ落語が始まり、客席から笑い声が聞こえてくると、ほっとして疲れも忘れます。自分たちが作り上げた会場でお客様に楽しんでもらうのはやはりうれしいです。
そして、落語が終了し、お客様を見送ったあと、舞台の片づけが待ち受けています。最後はやはり大変ですね(笑)。京都国立博物館 総務課 事業推進係 天野 史郎 - 奈良国立博物館
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上席研究員岩田 茂樹なら仏像館
リニューアルの話なら仏像館リニューアルの思い出まったくの個人的見解だが、少なくとも日本彫刻に関しては、奈良国立博物館は世界一だと思いつづけてきた。ただしそれは、寺社等の素晴らしいご所蔵品を多数寄託いただいているからである。それを思うにつけ、そのような優秀な作品にふさわしい展示ケースであり、展示室なのかという問いに対し、常に忸怩たる思いを味わってきた。透過度の低いガラスを用いた旧態依然たるケース、免震設備のない展示台、満足なスポット照明設備もない空間で、多くの作品の美しさを充分に引き出せていないと感じつづけていた。
2013年(平成25年)夏のゲリラ豪雨による被害を経て、事態は一変した。経緯の詳細は略すが、大規模なリニューアル工事が完了したのは2016年(平成28年)の春である。明るい室内空間において、個々の作品の美しさ、素晴らしさを存分に堪能いただける展示室が誕生したと考えている。もちろん地震対策にも意を凝らしたし、照明についても今日望みうる最良のものを導入しえた。世界に誇りうる展示館となったと自負する。そしてこれが、私にとって奈良博に在籍した間に関わった仕事のなかで最も記憶に残るものになるだろうと予感するのである。奈良国立博物館 学芸部 上席研究員 岩田 茂樹 -
ボランティア室職員鈴木 民子冊子【仏像を観る】冊子【仏像を観る】当館では、文化財修復のために寄付をいただいたお客様に、【仏像を観る】という冊子を差し上げています。薄い冊子ですが仏像観賞のための説明が充実しており、英語版と共に好評です。
この冊子が誕生したのは5年前。館長指示のもと制作チームが結成され、私はイラストを担当しました。研究員からは、「○寺の仏像に、○寺仏の光背をつけてみて」「○を持たせて」と注文が出ます。イラストの良い所は、自由に合成が出来ること。ただ、異なる仏像の部分をマッチングさせるのは難しく、書きあげてみると、違和感があって何か変。少しずつ修正し、注文にない別の仏像とも照らし合わせて、「どこかにありそうで、実際にはない仏像
のイラストが出来ました。その冊子もすでに2版目。ぜひ、手に取ってご覧ください。奈良国立博物館 ボランティア室職員 鈴木 民子 - 九州国立博物館
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博物館科学課 主任研究員志賀 智史バックヤードツアーバックヤードツアー展示室で目にする文化財の多くは、これまで大切に保管され、繰り返し修理が行われて伝えられてきました。保管や修理の現場は公開されることが大変少なく、文化財がどのように守り伝えられてきたのかを一般の方々に知って頂く機会はほとんどありませんでした。九州国立博物館では、免震層、収蔵庫、修復施設など普段見ることができない博物館の裏側を、ボランティアの案内で毎週公開しています。また、X線CT装置など最先端の科学機器を使った文化財の調査研究設備の一部も同時にご覧頂くことができます。みなさんもぜひ九州国立博物館まで足をお運び下さい。詳しくは、九州国立博物館のホームページをご覧下さい。九州国立博物館 学芸部 博物館科学課
主任研究員 志賀 智史 -
文化財課長河野 一隆九州国立博物館
準備のころ九州国立博物館準備のころ私が準備室に配属された頃は、東京国立博物館資料館の一角にパーティションで仕切った執務室であった。書類と本が山積みの狭いスペースだったが、熱気・活気に満ち溢れ、終電を越えることも稀ではなかった。開館1年前に九州へ移ると、新装なった国立博物館の威容に驚愕したが、それからが本番であった。展示品輸送のため全国から輸送トラックを太宰府まで何往復も走らせたが、そのために実働の何倍もの裏方作業が欠かせなかった。そして、より美しく分かりやすい展示作業を求めて、議論と実践の繰り返し。そうして迎えた開館の日は、まさに感無量であった。九州国立博物館 学芸部 文化財課長 河野 一隆 - 東京文化財研究所
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文化遺産国際協力センター
保存計画研究室長友田 正彦まだ見ぬ価値を
受け継ぐためにまだ見ぬ価値を受け継ぐために東南アジアを代表する仏教遺跡の一つ、ミャンマーのバガン遺跡を地震が襲い、被災状況を調査しに現地に赴いた。煉瓦造の寺院群を訪ね歩くうち、800~1000年前に建てられた歴史的建物の当初部分には損傷は少なく、むしろ近年に修理や再建された建物に被害が目立つことがわかった。敬虔な仏教徒にとって仏塔は過去の遺物ではない。完全で美しくあることこそが重要で、再建も功徳を積む行為に他ならない。だが、その建設技術は先人のそれより明らかに後退していたのである。
こうして、物の中に秘められていた価値が一つ現れる。未だ現前していない価値はどれほどあるのだろうか。無形の価値を受け継ぐためにも形ある遺産の保存が欠かせない所以である。東京文化財研究所 文化遺産国際協力センター 保存計画研究室長 友田 正彦 -
文化財情報資料部
近・現代視覚芸術研究室長塩谷 純ひたすら文字ばかり、
されど“美術”書
『日本美術年鑑』を編むひたすら文字ばかり、されど“美術”書『日本美術年鑑』を編む文化財情報資料部の大事な仕事のひとつに『日本美術年鑑』の編集があります。この『日本美術年鑑』は、日本の美術界の動きを一年ごとに総覧できるよう、基本となる資料を収集整理してまとめたデータブックです。昭和11(1936)年に刊行されて以来、出版を続け、昨年には創刊80周年を迎えました。タイトルに「美術」とあるものの、作品の図版は全くなく、ひたすら文字ばかりが並んだ体裁はちょっと取っつきにくい印象がありますが、美術を知る上での基礎文献の編集とあって、スタッフ一同、地道な作業に日々黙々と励んでいます。その一方で、編集に際し蓄積された膨大な情報をより効率的に発信できるよう、当研究所のウェブサイトでのデータベース公開、さらには国内外の関連機関との連携によるデータ提供に努めています。書籍とデータベースという新旧両面の顔をあわせ持つ『日本美術年鑑』を、これからも末永くご活用いただければ幸いです。東京文化財研究所 文化財情報資料部 近・現代視覚芸術研究室長 塩谷 純 -
保存科学研究センター長佐野 千絵保存科学研究
の隅っこで保存科学研究の隅っこで文化財の保存環境の研究は、地味で一般の方々にその重要性をお伝えする機会は少ないのが悩みです。文化財はさまざまな材料、手法で作られ、どのように現代まで伝えられてきたかに依って、傷み方が異なります。保管場所が安全かどうか、防災・防犯、温湿度制御、空気清浄化、照明の適正化について、科学の目でチェックし、問題を発見したり、解決法を提案するのがわたしたちの仕事です。また、文化財の価値や優品の迫力を体感していただくために、展示室・展示ケース内で使用する材料の選別方法、展示補助具や収納具の安全性、文化財が退色せず鑑賞しやすい空間をつくるための照明研究を行っています。
材料・手法ともに次々と新技術が提案されるので、研究対象は無限です。研究成果が博物館・美術館で応用され、安全で鑑賞しやすい空間ができると、心の中でひそかに喜んでいます。黒子です。東京文化財研究所 保存科学研究センター長
佐野 千絵 -
無形文化遺産部
無形民俗文化財研究室長久保田 裕道獅子をたずねて獅子をたずねて無形文化遺産というのはなかなか範囲が広いが、その一つに民俗芸能がある。現在全国のデータベース化を進めているが、なにせバリエーションが豊富なのだ。例えば、ポピュラーな獅子舞にさえ変わった種類がたくさんある。山形では火の輪くぐりをする、サーカスのライオンのような獅子がいた。和歌山で見た、一つの胴体に雌雄二つの頭がくっついてしまった双頭の獅子には驚かされた。沖縄では、毛むくじゃらの獅子が子どもを引きずりまわし、赤ん坊を飲み込むシーンに出くわした。
そんな地域性に富む獅子だからこそ、地域のアイデンティティにもなりえる。そうした価値観を大切に、継承や活用の一助になるような研究を続けたいと思う。東京文化財研究所 無形文化遺産部 無形民俗文化財研究室長 久保田 裕道 - 奈良文化財研究所
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都城発掘調査部 主任研究員神野 恵平城京造営に伴う
大土木工事のあと平城京造営に伴う大土木工事のあと奈良文化財研究所の本庁舎は、特別史跡平城宮跡と接する場所にあります。現在、建て替え工事が進行中ですが、事前に発掘調査を行いました。その結果、秋篠川の旧河道が敷地内を通ることや、平城京造営時には、その河川を利用した溝が整備され、資材の運搬に利用されたことがわかりました。また、木葉や枝を敷いてから土を盛る敷葉・敷工法で丁寧に埋め立て、条坊道路を施工していることも明らかとなりました。1300年以上前に敷かれた枝葉は、土から掘り出された一瞬、緑色を残すほど新鮮でした。
この発掘調査は、土壌分析、地震痕跡、環境考古、年輪年代、三次元計測・・・奈文研の総力を尽くして取り組みました。遺構保存のために庁舎建設は2年ほど遅れましたが、整理作業は現在も継続中で、次々と新たな成果が生み出されています。奈良文化財研究所 都城発掘調査部 主任研究員
神野 恵 -
副所長渡辺 晃宏平城宮跡出土木簡、
国宝指定へ平城宮跡出土木簡、国宝指定へ平城宮跡最初の木簡が見つかった昭和36(1961)年から半世紀。今や木簡出土は全国の都道府県に及び、その数は40万点を超えました。その7割近くは奈良文化財研究所(以下、奈文研)が調査したものです。発掘だけでなく、木簡の保管・情報公開は、奈文研の大きな仕事の一つになっています。
2003年(平成15年)以来、出土遺構のまとまりごとに、4回にわたって重要文化財指定が行われてきた平城宮跡の木簡が、2017年(平成29年)3月、新たに309点を追加した上で、「平城宮跡出土木簡」として一括して国宝に指定される運びとなりました。総点数は3,184点、既発掘の平城宮木簡の5%にも満たない数ですが、特別史跡平城宮跡が、地下の正倉院とも呼ぶべき重要な資料の宝庫であることが、改めて高く評価された出来事と言えるでしょう。奈良文化財研究所 副所長 渡辺 晃宏 -
飛鳥資料館 学芸室長石橋 茂登飛鳥資料館と
キトラ古墳壁画
の展示飛鳥資料館とキトラ古墳壁画の展示奈良文化財研究所は文化庁が行うキトラ古墳の調査や保存などに協力してきました。石室から取り出した壁画は飛鳥資料館において2006年(平成18年)から順次公開され、毎回数万名もの人々が訪れました。2016年(平成28年)秋には国営飛鳥歴史公園キトラ古墳周辺地区のキトラ古墳壁画体験館「四神の館」がオープンしました。地階の展示エリアは製作段階から協力体制がとられたので、奈文研の調査研究の成果を多数取り入れた見応えのある展示になっています。一階にある文化庁のキトラ古墳壁画保存管理施設は、運営を奈文研が受託しており、公開事業を文化庁とともに行っています。
壁画の公開や保管はたいへんな仕事ですが、文化財を守り伝える大切な仕事として、他のメンバーとともに末永く継続していきます。奈良文化財研究所 飛鳥資料館 学芸室長 石橋 茂登 - アジア太平洋無形文化遺産研究センター
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アジア太平洋無形文化遺産研究センター
総務担当係長林 洋平堺市からアジアへ堺市からアジアへアジア太平洋地域は、日本の山・鉾・屋台行事、モンゴルの喉歌ホーミー、インドネシアの伝統染織バティックなど、多様性に富んだ無形文化遺産を誇っていますが、貧困、紛争、自然災害等により、継承が難しくなっています。
アジア太平洋無形文化遺産研究センター(IRCI)は、本地域で唯一の無形文化遺産を研究するユネスコのカテゴリー2センターとして、上記の現状に対して、ユネスコ無形文化遺産保護条約の普及をはじめ、法制度整備、研究マッピング、災害リスクマネジメントなど、多岐にわたるプロジェクトに取り組み、時代や国境を越えた文化の伝承に貢献しております。
今年設立6年目を迎えたばかりの若い組織ですが、アジアの無形文化遺産保護の中心的な研究センターとなるべく活動しています。アジア太平洋無形文化遺産研究センター
総務担当係長 林 洋平
展示改修について